三年後、会社を辞めて旅に出よう

アラフィフシングルライフ

ハンス・カーベルの輪をさがして その5

さて、これで「ハンス・カーベルの輪」の出典は明らかになったわけだが私が探していたのは「わいせつの最たるもの」であるところの「ハンス・カーベルの輪」だった。浮気防止策としての「ハンス・カルヴェルの指環」の有効性に疑いはないが、そこまで猥褻なことばだろうか。

第一之書から第三之書まで読んできたかぎり、フランソワ・ラブレーの書いたこの小説は常識を笑い飛ばし、権威を風刺するおふざけ満載。時代背景や当時の常識にかんする知識があれば大笑いできたのだろう。ただ、出版当時に禁書扱いされる危険性から、直接的な表現はさけられている。性交の表現にしても、「两人(ふたり)して二つ背の獸ごとを行う」とか「太鼓たたきごつこ」になっていたり。その中では「ハンス・カルヴェルの指環」は直接的な表現だったということなのか。

訳注によると、「ハンス・カルヴェルの指環」に似た挿話は当時のヨーロッパでは広く伝えられていたとのこと。中世の、ルネサンス時代における禁忌の多さとともに、現代以前の「わいせつ」の範囲の広大さに想いをいたすべきということか。

 

それにしても、渡辺一夫氏による訳文の味わいは素晴らしい。名訳とされているとのことだが翻訳というよりも翻案に近いのではないか。もともとのガルガンチュア物語もパンタグリュエル物語もストーリーがほとんど無く、さまざまな知識をばらまきながら進行する会話劇のようなものなのだが、それを広範な知識にもとづき、時に大胆に造語しつつ訳されている。「孤窮(コキュ)」や「不可稱處(コマン・ア・ノン」といったことばは、旧字体の漢字のせいもあり21世紀の今読むと、たくまざるユーモアと軽妙な響きに感じられる。

不可稱處という訳が可笑しい。呼んではならないところ、読み下し文風にすると「となうべからざる処」とでもなるか。こうなると、21世紀になって宮下史郎氏の翻訳がどうなっているのか気になってくる。「ハンス・カルヴェルの指環」の記述は3巻にあることがわかっているのでアマゾンで「第三の書 ガルガンチュアとパンタグリュエル3 (ちくま文庫) 」だけ買ってみた。

さすが電子版、Kindleの検索で一発でたどりつく(すごく楽でちょっと悔しい)。

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渡辺訳で「不可稱處」と訳されていた部分は「名状しがたき部分」となっていた。平易でわかりやすいが、大真面目にふざけている感じが抜けてユーモアが足りないような…。あとなんとなくクトゥルフ神話っぽい。